ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
運動は未来の自分への投資(放送内容 資料はこちら)
私は循環器内科医として患者さんを診てきて、突然死や急性心筋梗塞、心不全で倒れる前に予防したい、介入していきたいと思う気持ちが強くなりました。そんな思いから、運動とアンチエイジングについてお話しします。
アンチエイジングというと、美容やサプリメントなどを思い浮かべる方も多いかもしれませんが本当のアンチエイジングは、単に若く見せることではありません。
年齢を重ねても、自分の足で歩ける、食事がおいしく食べられる、心も体も元気に過ごせる、そんな身体の機能を保ちながら、健康に年齢を重ねることが大切だと考えます。そのために欠かせないのが運動です。
血管は、全身へ酸素や栄養を運びます。体を動かすと、血流が増え、その刺激によって血管の内側の働きが良くなります。血管がしなやかに保たれることは、高血圧や動脈硬化、心筋梗塞や脳卒中の予防につながります。
ところが運動の効果は血管や筋肉そのものだけではないのです。
筋肉は体を動かしたり姿勢を保持しますが、それだけでなく、運動すると様々な物質を分泌し、全身へ情報を送ります。それがマイオカインです。
運動して筋肉が収縮すると、このマイオカインが血液を通して全身へ届きます。
脂肪組織や肝臓、血管、骨、そして脳など様々な臓器へ伝わり代謝や炎症、血管機能などに関わります。
さらに、BDNFという、脳の神経細胞の働きを支える物質が増え、運動すると頭がすっきりする、気分が前向きになると感じます。運動は脳や心にも影響しているのです。
一方、老化の背景に慢性炎症があります。風邪やケガなどの強い炎症とは違い、体の中で小さな火種がくすぶり続けているような状態です。適度な運動には、この慢性的な炎症を整える作用もあります。
つまり運動は、血管、骨、脳、代謝、そして頭や心といった、全身に働きかけます。
運動をするだけで昔の自分に戻ることはできません。でも運動を続けることで細胞や臓器が健康に働ける環境を整え、老化に伴う機能低下を緩やかにしていくことはできます。これが、運動から考えるアンチエイジングです。
次回は、実際の運動内容について、心臓リハビリテーションの経験も交えながらお伝えします。
自分に合った運動を今日から始めよう(放送内容 資料はこちら)
今日は実際の運動内容についてお話しします。
世界保健機関、WHOでは週に150分から300分程度の中等度の有酸素運動と、週2日以上の筋力トレーニングを推奨しています。1日にすると20〜30分程で「少し息が弾むけれど、会話はできる」くらいから始めることがベストです。時間がなくても、仕事の合間に立ち上がる、少し歩く、階段を使う、掃除をする、こうした日常の動きにも意味があります。
姿勢や体の動かし方も大切です。悪い姿勢でトレーニングや運動を行うと、身体を痛める場合もあります。また、猫背でスマートフォンを見るような姿勢は健康に悪影響ですが、ほとんどの方が意識していません。姿勢が崩れると、首や腰だけではなく、胸が開きにくくなって呼吸が浅くなったり、活動量が減ることがあります。ほうれい線などのたるみといった見た目はもちろん、うつなどの病気にまで関係あるといわれています。
反対に、正しい姿勢や体の使い方を身につけることは、筋力トレーニングや有酸素運動を安全に続けるための土台になります。ピラティスなど姿勢や呼吸、体の動かし方を意識する運動が注目されているのも、こうした考え方と共通しています。
私は、心筋梗塞や心不全を経験された患者さんの心臓リハビリテーションにも携わっています。心臓の病気があるのに、運動してよいのかと驚かれることもありますが、実際はなるべく早期からリハビリを開始し、状態を確認しつつその人に合った運動を処方します。適切な運動を続けることは、体力や生活の質の改善、心血管疾患の再発や心不全の再入院予防にも重要です。心臓の病気を経験した方も、その方に合った方法で運動を続けていますから、年だから、運動が苦手だから、私は無理と思ってほしくありません。隙間時間での正しい姿勢でのスクワット、食後のウオーキング、寝る前のストレッチなどできることから始めましょう。
私が今お話ししているこの瞬間が、私にとってもみなさんにとっても一番若い瞬間です。運動は何歳からでも始めることができます。
未来の健康をつくるのは、今日の小さな一歩の積み重ねです。ぜひ今日という一番若い日から、自分のために、少し体を動かしてみてください。