ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2025年7月17日放送(放送内容 資料はこちら)
慢性前立腺炎は、尿道・肛門周囲・睾丸・足のつけね・下腹部などに痛みや不快感が生じる疾患で、射精時の痛みを伴うこともあります。これらの骨盤部の症状に加えて、排尿回数の増加や排尿後に尿が残っているように感じる排尿症状もみられます。原因は細菌などの感染・尿の前立腺への逆流・骨盤部の血流不足・男性ホルモンの低下などが考えられます。
前立腺は肛門から指を入れると直腸を介して触ることができ、炎症があれば前立腺は腫れており、マッサージすると痛みを訴えます。診断には前立腺マッサージ後の尿を用いた尿検査や細菌の有無を調べる検査を行います。
これらの検査で炎症所見がでなくても慢性前立腺炎が否定されるわけではありません。検査で細菌が検出されなかった場合は「慢性骨盤疼痛症候群」とも呼ばれます。
治療としては、抗菌薬・消炎剤・鎮痛剤・漢方薬の他、前立腺肥大症の治療薬を症例により色々組み合わせて用いるのが標準的です。アルコール・カフェイン含有飲料(コーヒー・紅茶など)・唐辛子などの刺激物は症状を悪化させるため控える必要があります。また長時間座っていると前立腺への血液循環が悪くなり症状が悪化するため、長時間の車の運転や自転車やバイクの使用も避けるようにします。
慢性前立腺炎には世界共通の問診票があり、それを用いて治療効果を評価します。慢性前立腺炎の標準的治療が効果的であれば、1~2カ月で症状の改善が見込めますが、中には治療を行っても痛みが改善せず日常生活に支障がでてしまう症例もあります。これが慢性前立腺炎で一番問題になります。
症状の発現から治療を開始するまでの期間が重要です。発症から3カ月以上経過した場合、これを「慢性疼痛」といい、標準的な治療では効果が出にくくなっていきます。
「慢性疼痛」になると患者様は痛みのことを考える時間が増え、不安が増加し、「うつ」の状態になり、症状が改善しないことにより医療機関への不信感が生じ、転院を繰り返すことがあります。そして治療はさらに難しくなっていきます。
次週は難治性の痛みに対してどのように対応していくかを説明いたします。
2025年7月24日放送(放送内容 資料はこちら)
前回お話したとおり、目安として症状がでてから3カ月以上経過すると、慢性前立腺炎の標準的治療が効きにくくなっていきます。発症から3カ月以上続く痛みは「慢性疼痛」と呼ばれ、以下の3種類の痛みが関与しています。
1つ目は一般的な炎症に伴う痛みです。発症から3カ月以内では、前立腺の炎症による痛みが主であり、慢性前立腺炎に対する標準的治療が効果を示します。
2つ目は神経が障害されることによって生じる痛みです。炎症が長びくことで、前立腺の周囲の神経が障害を受け痛みが生じるようになります。
3つ目は感情による痛みです。痛みが長びくと、不安や恐怖などの感情が強まります。この感情が脳を刺激し、その結果痛みを和らげる神経系の働きが弱くなり痛みが生じます。
「慢性疼痛」では前立腺の炎症による痛みは減少し、神経障害や感情による痛みが中心となっていきます。そのため経過が長くなると標準的治療では十分な効果が得られなくなります。
患者様の中には痛みのため生活に支障がでて、仕事が続けられなくなる方もおられます。症状が改善しないことで医療機関への不信感が生じ、転院を繰り返すこともあります。
このような場合、医療従事者は患者様のお話を丁寧に伺い、その辛さを理解し信頼関係を築くことが重要です。
標準的治療で効果が得られない場合は、神経障害による痛みに対する問診票および不安や「うつ」に対する問診票を用いて、現在の患者様の状態を評価します。そのうえで、どのような痛みが主な原因なのかを説明します。患者様と医療従事者は一体となって、痛みに立ち向かう姿勢が求められます。
「慢性疼痛」の治療に対しては、標準的な治療とは異なりガイドラインに沿った別の治療を行います。具体的には痛みを減らす神経系の働きを強める薬剤を使います。効果がでるまでには時間がかかりますが、痛みが減少すると患者様は不安が減り、「うつ」も改善していきます。そして痛みについて考える時間が減り、表情が明るくなっていきます。
慢性前立腺炎による頑固な痛みは決して「治らない」わけではありません。痛みが軽減しない場合は、これまでとは異なる視点から治療を考えることが必要と考えます。