ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2025年6月19日放送(放送内容 資料はこちら)
「音は聞こえるが内容がわからない」、「テレビの音が大きいと言われる」、「車が近づく音に気がつかない」。これらはみな難聴による症状です。
難聴が進行すると、家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなります。声をかけられても返事ができず、話を聞かないと思われてしまいます。聞き返すことがおっくうになり、聞こえたふりをしてしまうため、その結果理解ができません。会話に入れないと社会的に孤立してしまい、うつ状態になってしまう人もいます。最近の研究では認知症発症のリスクが大きくなることも分かっています。
耳は耳の穴と鼓膜がある「外耳」、鼓膜の奥にある空間の「中耳」、聞こえのセンサーである蝸牛という聴覚器官の一つが入っている「内耳」の3つの部分で構成されています。
内耳は聞こえの神経とつながっており、神経は脳まで続いています。音は耳の中に入ると、鼓膜を太鼓のように振動させます。その振動が中耳の中を伝わり、内耳に届けられます。内耳にある聞こえのセンサーでは振動のエネルギーを電気信号に変換するシステムがありますので、電気信号が聞こえの神経を伝わり、脳にまで届いて、初めて音として認識されます。
耳の仕事は脳に音を届けることであり、実際には脳で音を聞いているのです。加齢性難聴は内耳の老化現象が主な原因であるため治療法はなく、生活に支障をきたすようになれば補聴器の出番となります。
補聴器のイメージはあまり良いものではありません。実際に補聴器を購入しても音がうるさすぎて使い続けられなかった人や、補聴器を使っても効果が実感できず、使わなくなった人も多く、難聴をあきらめてしまい、不自由な生活をおくっています。
聞こえがよい人と比べ、難聴の人は脳に届く音・電気信号が少なくなっています。その状態が長く続くと、脳は音の処理の仕方を忘れてしまい、音に慣れていない「難聴の脳」になってしまいます。補聴器により急に音が届くようになると「難聴の脳」はうるさいと感じてしまうのです。
それではどうすれば補聴器を使えるようになるのでしょうか?ポイントは「難聴の脳」をトレーニングし、聞こえのリハビリをしてイキイキとした「聞こえる脳」に変えることです。
2025年6月26日放送(放送内容 資料はこちら)
補聴器を満足に使うためには「難聴の脳」をトレーニングし、聞こえのリハビリをして「聞こえる脳」に変えていく必要があります。低下した機能を回復させるので、リハビリになります。
けいゆう病院で行っている補聴器リハビリを紹介します。
「難聴の脳」は音に慣れていないため、補聴器は弱めの設定から開始します。目標の70%程度の音の大きさに設定しますが、これはなんとか不快に耐えられる程度であり、かつ効果を実感することもできます。最大のポイントは補聴器を朝起きてから夜寝るまで、1日中つけて生活することです。最初のうちはいろんな音がとてもうるさく聞こえて不快に感じますが、数日すると徐々に不快は軽減し、1週間もすると無理なく使えるようになります。その状態を確認したら補聴器を調整し、少しだけ音を大きくします。その設定でまた1週間生活してもらうと、また不快に感じますが、毎日補聴器をつけて生活していると、使えるようになります。そこでまた補聴器を調整し、音を大きくします。これを繰り返し、少しずつ少しずつ補聴器の音を大きくしていき、最終的に目標値まで上げていきます。
「難聴の脳」を少しずつ音に慣らしていき、よく聞こえていた時のイキイキとした脳の状態に近づけるのです。この脳が変わる期間は3か月程度必要であり、そのころにはほとんどの患者さんが自信をもって自分の聴力にあった補聴器を使えるようになります。この方法は宇都宮方式と呼ばれており、多くの施設で参考にされています。
補聴器の調整と補聴器の効果を確認するための検査も非常に重要です。補聴器の調整にはとても高度な知識と技術を必要とし、補聴器から出ている音の大きさを測定し、患者さんの使用状況を確認しながら細かく調整していきます。
けいゆう病院では言語聴覚士という補聴器リハビリの専門家が調整を行っています。補聴器には価格に大きな幅がありますが、それほど高価な補聴器でなくとも十分に対応できることが多いです。
補聴器の効果を確認する検査は補聴器適合検査といい、防音室で補聴器をつけた状態で行います。音の聞こえを評価する検査と言葉の聞こえを評価する検査があり、補聴器調整の目安としています。