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ラジオ番組 みんなの健康ラジオ

神経内分泌腫瘍(NET)に対する、RI内容療法(受容体標的放射線治療)について

2025年3月13日放送2025年3月20日放送

2025年3月13日放送

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2025年3月13日放送(放送内容 資料はこちら

今回は皆さんに二つの耳慣れない言葉をお知らせいたします。
まずはがんの病名のひとつである神経内分泌腫瘍、二つ目は放射線治療法のひとつであるRI内容療法です。

まずは神経内分泌腫瘍、英語の頭文字をとってNET、ネットと呼ばれるので今後はNETということにします。NETはがんのひとつです。がんには様々な種類がありますが顕微鏡検査によっていくつかのタイプに分類されます。代表的なものは腺癌、つきへんにいずみと書く腺癌で成人のがんの多くがこれです。

腺癌以外に扁平上皮癌や肉腫などに分けられますが、NETも顕微鏡によって区別される癌の一つです。例えば膵癌というがんはほとんどが腺癌であるため、膵癌といえばもうすべて腺癌であると考えてしまうことが多いのですが、実はその中の数%、100人の膵癌の中には90人以上の腺癌に紛れて2-3人くらい膵NETの患者さんがいます。大腸癌、胃癌、その他の多くのがんでも同様で、ほとんどが腺癌なのですが少しだけNETが紛れています。実にまれながんであるためまれで少ないと書いて希少癌と呼ばれることがあります。

NETにしろ腺癌にしろ治療法の第一選択肢は外科手術でそっくりとることですが、残念ながら手術では取れない進んだがんになってしまうこともあります。その時には抗がん剤などの薬を使用するのですが、腺癌で効く薬がNETでは全く効かないことがしばしばあります。

NETのがん細胞には腺癌ではほとんど見られないソマトスタチン受容体という特殊な物質がたくさん出ていて、この因子を標的としたオクトレオチド、ランレオチドという薬が開発されています。次回はこの薬を使った受容体標的放射線治療という新しい治療法についてお話いたします。

2025年3月20日放送(放送内容 資料はこちら

前回は希少がんであるNETの話とそのNETの細胞にはソマトスタチン受容体がたくさん存在すること、ソマトスタチン受容体を標的とした薬剤が開発されていることをお話いたしました。

この標的薬は、注射をすることで、NETに集まります。最近ではこのようにがんに集まる性質をもった標的薬に抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)でがんを治療するということがテレビでも宣伝されています。NETに対する治療薬は抗がん剤を結合させるのではなく、放射線を出す放射性同位元素、RIを標的薬に結合させて薬として点滴投与します。ここで使用する放射性同位元素RIはルテチウムの同位体です。ルテチウムからはβ線という放射線が放出されます。β線は陽電子線であり、いわゆる粒子線治療のひとつにあたります。

標的薬はNETの細胞に存在するソマトスタチンに結合し、ルテチウムと一緒にNETの細胞の中に入ります。するとルテチウムからはβ線が放出され、細胞の中のDNAに傷をつけて細胞を殺してしまいます。ルテチウムから出るβ線は最大でも1-2mmぐらいしか届きませんので、放射線はほぼNETを壊すことだけに使用されます。

このように放射性同位元素を体内に投与する治療法であるRI内容量法は古くからあり、ヨウ素が甲状腺に集まることを利用して放射性ヨウ素を用いた甲状腺がんの治療は1950年代から行われてきました。ヨウ素は何もしなくても甲状腺に集まりますがルテチウムは何もしないとNETには集まってくれないので、NETに集まる標的薬に結合させるというひと工夫を加えて、受容体標的放射線治療にすることで素晴らしい薬剤として効果を発揮するようになりました。

現在では同様に前立腺癌の標的薬に放射性同位元素を結合させた薬剤の開発も進んでいます。今後ますます、様々ながん治療の切り札として開発が進むものと考えられています。

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