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薬剤耐性菌について

2024年8月29日放送2024年9月5日放送

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2024年8月29日放送

「薬剤耐性」が世界規模で問題となっています。抗菌薬により効果がある菌は死滅し、耐性菌が生き残り、ヒトや動物、環境を通じて世間に広がります。抗菌薬が効かないため重症化や死亡に至る例が増えることが予想され、人と動物等の保健衛生の一体的な推進(ワンヘルス・アプローチ)の強化を含めた薬剤耐性対策が必要になりました。

2015年5月の世界保健機関(WHO)総会ではグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に自国の行動計画を立てるよう要請されました。

これを受け、2016年4月5日に我が国として初めての薬剤耐性対策アクションプランが決定されました。現在、日本国内で問題になっている耐性菌の一つにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が挙げられますが皮膚科領域では多く検出されています。

MRSAとは多くの薬剤に対し耐性を示すようになった黄色ブドウ球菌のことです。黄色ブドウ球菌は皮膚・軟部組織疾患の代表的な原因菌でとびひ、毛包炎、膿み、蜂窩織炎などを引き起こします。時には毒素性ショック症候群などの重症疾患の原因となることもあります。

MRSAは特殊な遺伝子であるmecA遺伝子を有する事で薬剤耐性を獲得し、βラクタム薬という細胞壁合成を阻害する薬剤に対し親和性の低い性質を有するようになり、薬剤による細胞壁の合成阻害ができず薬剤耐性を起こすようになった黄色ブドウ球菌です。MRSAには院内感染型と市中感染型があり、昨今、日本国内では皮膚感染症の原因菌として市中感染型MRSAが多く検出されています。

2024年9月5日放送

市中感染型MRSAとは「医療機関に関係なく健常人に感染したMRSA」と定められていましたが、昨今では、感染の場所が院内か市中かで分類するのではなく、細菌の遺伝子学的特徴によりMRSAのタイプ分けがなされるようになってきました。さらに近年では病院内から検出されるMRSAは院内感染型の遺伝子型特徴を有するものよりも、市中型が増えてきています。

これは市中から院内へのMRSAの持ち込みが原因とされており、よって、市中における早期診断と治療が重要となってきました。また不用意に広いスペクトルの抗菌薬を使うことや不十分な量や期間の服用により耐性菌のみが生き残る、という負の連鎖を起こさないように患者様にも注意をしていただきたいです。

市中感染型MRSAは化膿が強く深いところで炎症を起こす皮膚感染症の原因菌となることが多いですが、USA300クローン、Ψ(シュード)USA300クローン、ST-22PTなどが流行しています。USA300クローンはアメリカで2000年頃に健常人の間で流行してしまい問題となった株であり、ΨUSA300クローンとST-22PTは日本独自に進化した株です。

これらは毒素であるPanton-Valentine leukocidin(PVL)を産生するため、炎症や腫れなどが通常よりも強く現れることが特徴とされています。よって、外科的処置で膿みを出すこととともに、使用できる抗菌薬は限局されるため抗菌薬の選択も重要となります。

また、原因菌が鼻腔や皮膚に定着していると病状が繰り返すため、鼻腔除菌とともにヒノキチオールなどを用いた入浴剤で皮膚の除菌をしていくことが大切です。またアトピー性皮膚炎などの湿疹を有する方は皮疹のコントロールも非常に重要になってきます。

※黄色ブドウ球菌が産生する菌体外毒素の一種

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